石田 肇 木村 亮介 泉水 奏 小金渕 佳江
澤藤 りかい
研究概要 小金渕 佳江
1. 琉球諸島ヒト集団の全ゲノム配列解析による集団形成史の解明
2.古代ゲノム解析への応用に向けたBACダブルキャプチャー法の検討
1. 琉球諸島ヒト集団の全ゲノム配列解析による集団形成史の解明(小金渕佳江)
琉球諸島は奄美諸島と沖縄諸島, 先島諸島から成る南北約1,200kmにわたる日本列島端の島嶼地域である。
琉球諸島と本土日本は, 全ゲノムSNP(Single Nucleotide polymorphism)解析より異なる遺伝的背景を示し, すなわち集団形成の歴史が異なるが明らかになっている。
また琉球諸島内でも, 島によって異なる集団形成史を持つことが示唆されている。
琉球諸島でよく認められる疾患としてATL(成人T細胞白血病), 宮古島で報告例の多い古典的カポジ肉腫などがあり, このような地域特異的な疾患の発病にはその地域特有の遺伝要因と環境要因の双方が関与していると考えられる。
そのため, 琉球諸島民の詳細な遺伝的背景を明らかにすることは, 疾患を理解するための基礎情報の構築に貢献できる。
そこで本研究では, 琉球諸島集団の全ゲノム解析を用いた集団形成史の解明を大目的とし, まず初めに祖父母4名が沖縄島出身(OK)の25検体の全ゲノム配列解析と大規模ゲノム配列情報の解析パイプラインの構築を実施した。
HiSeq X (Illumina社)を使用してOKの25検体から抽出したDNAの全ゲノム配列解読を行った。
その配列解析のために琉球大学研究基盤センターに設置されている共用計算サーバに, 米国ブロード研究所が公開しているGATK best practicesに沿った解析パイプラインを構築した。
参照配列にはGRCh37を用いて, 多型サイトをコールした。
比較解析には全検体の90% 以上で遺伝子型が判定されているSNPサイトを使用した。
比較には1000ゲノムプロジェクトで公開されている日本人(JPT)104検体から任意に抽出した25検体を使用した。
その結果, OKでは8,165,866サイトでSNPが取得できた。
JPTのSNPサイト数は10,950,213であり, OK-JPTの共有サイト率は76.4% ,また非共有サイトの約60% はシングルトンで, 集団特異的な多型サイトは僅かであった。
今後は宮古島出身者25検体と石垣島出身者25検体の配列解析を進め, 3集団を用いた琉球諸島の集団形成史の推定を進める。 また, 他の島の出身者のゲノム情報の収集も実施予定である。 戻る↑
2. 古代ゲノム解析への応用に向けたBACダブルキャプチャー法の検討(小金渕佳江)
古代ゲノム解析では骨や歯などの古い異物からDNAを集中するが, そのDNAは長い年月を経て100bp以下に断片化し, 加えてバクテリアゲノムの含有率がほとんど場合99% を超えている。
そのため, 目的のDNAのみを抽出することは解析の効率化 ・ 低コスト化を図る上で重要である。
ターゲットキャプチャー法は次世代シークエンサー用ゲノムライブラリーから目的の領域を選択的に濃縮する手法である。
先行研究ではミトコンドリアDNAのターゲットキャプチャーのために, 一般的な研究室の設備で作成できるPCRアンプリコンを濃縮に必要なベイト(釣り針)に使用している。
しかし, 遺伝子のような数十〜数百kbp領域の解析では, PCRアンプリコンを使用して作成したベイトでは不適切である。
また商用のキャプチャーキットはカスタムで作成する必要があるため実験コストが大きい。 そこで本研究ではバクテリア人工染色体(BAC)をベイトに使用し, 条件検討と商用製品との比較を実施した。
現代人ゲノムDNAでの条件検討の結果, ベイト長のピーク値は350–700 bp, 濃縮回数は2回, ハイブリダイゼーション温度は65度で実施すると高い濃縮率が得られた。
そこでこの条件で行うBACを用いたターゲットキャプチャーをBACダブルキャプチャー(BDC)法と命名した。
BDC法を商用キット比較し, 同程度の濃縮効率を得ることに成功した。
また, 実験費用面ではBDC法が商用キットより優れていた。 今後, 本手法は古代ゲノム解析における常染色体遺伝子座の多型解析等, 幅広い応用が期待できる。戻る↑