研究紹介

 
 
 

一酸化窒素(nitric oxide: NO)の研究は、世界中の多くの研究者が関心を寄せるホットな研究領域です。1998年にはNOの発見に関する研究業績に対してノーベル医学生理学賞が授与されました。注目すべきことに、NO関連論文の出版数は未だピークには達しておらず、現在も増加し続けており、最近では実に年間7000報を越えるNO関連論文が出版されています(図1)。


NOは、ほとんどすべての組織・臓器において産生・遊離され、生体の恒常性の維持に重要な役割を果たしています。NO合成酵素(NOS)システムは、神経型(nNOS)、誘導型(iNOS)、内皮型(eNOS)の3種類の異なったアイソフォームで構成されています。


これまで生体内におけるNOSシステムの役割が、薬理学的研究やNOSアイソフォーム欠損マウスを用いて広く研究されてきました。しかし、薬理学的研究では薬剤の特異性が常に問題となり、またNOSアイソフォーム欠損マウスではノックアウトされない他のNOSの代償機構が働くために、生体内におけるNOSシステムの真の役割は未だ十分に明らかではありません(図2)。


この重要な問題点を検討するために、私達は、NOSシステム完全欠損マウス(triple nNOS/iNOS/eNOS-KOマウス)を世界に先駆けて開発しました(PNAS 2005)(図3)。このマウスは、幸運にも胎生致死ではなく誕生しましたが、出生率や生存率は野生型マウスに比して著明に低下していました(図4)。死因の病理学的検索では、このマウスの約半数が自然発症の心筋梗塞で死亡していることを見出しました(図5)(Circulation 2008)。更に、脳神経系、内分泌代謝系、骨系、消化器系を含めた様々なシステムの異常も解明しつつあります(図6)(J Exp Med 2008, Circulation 2008, J Bone Miner Res 2008)。以上より、NOSシステムが生体の恒常性の維持に重要な役割を果たしていることが世界で初めて明らかになってきています。


  私達は、この研究によってヒトの病気の成因が詳細に解明され、その知見が臨床に還元されて、最終的に臨床医学の発展に貢献出来ることを目指しています。

生体内における一酸化窒素合成酵素システムの意義の解明

 

         


図1. NOに関連する論文数の推移

      

図2. 薬理学的研究およびNOSアイソフォーム欠損マウス研究の問題点



         



図3. Triple NOSs欠損マウス(NOSシステム完全欠損マウス)の樹立

      

図4. Single, Double, Triple NOSs欠損マウスにおける生存率



         



図5. 死亡したTriple NOSs欠損マウスに認められた急性心筋梗塞

      

図6. Triple NOSs欠損マウスの多彩な表現型






         

 

薬理学教室からの眺め

ハイビスカス

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