これまでの研究
これまでに研究室で行ってきた研究です。今後再び卒業研究のテーマとして提供する可能性があります。
天然ガス輸送・貯蔵
天然ガスは石炭や石油に比べて二酸化炭素排出量が少ないため、これから使用量がさらに増えると予測されています。一方で標準状態では気体であるため、体積あたりのエネルギー量が大きくないということが欠点としてあります。
日本は天然ガスを液化天然ガス(Liquified Natural Gas, LNG)の形で輸入しています。LNGは気体に比べて600倍の密度になる一方で、非常に低温であることから製造・輸送・貯蔵を行う施設がその低温に耐えられる素材で作られる必要があります。
LNGに代わる天然ガスの輸送・貯蔵手段として天然ガスハイドレート(Natural Gas Hydrates, NGH)があります。NGHは気体に比べた密度は160倍程度ですが、比較的高温で保存可能であることがわかっています。私たちはこれまでにNGHを保存する条件でのハイドレートの生成・分解条件を測定する研究を行ってきました。
アルコールハイドレート
一般にハイドレートのゲストは疎水性、すなわち水にあまり溶けない物質です。疎水性のゲスト分子がハイドレートの籠の中に入ることで結晶構造を安定化させるためです。長年アルコール類のように親水性、水によく溶ける物質はゲストにならないとされてきました。中でもエタノールやプロパノールといった分子サイズの小さいアルコールはハイドレートの生成を阻害する物質とみなされてきました。
私たちのこれまでの研究で、エタノールやプロパノールがメタンとともにハイドレートのゲストとなることが明らかになりました。このことは、アルコール類のハイドレート生成阻害剤としての使用に対して影響があるとともに、親水性の物質がゲストとなった時にハイドレートの籠を構成する水分子とどのような相互作用を持つかという物理化学の観点からも面白い現象といえます。
氷床の空気ハイドレート
地球温暖化を議論するうえで過去に地球がどのような気候変動を経て来たかを明らかにすることは重要です。人類が現在の形で気象観測を行うようになったのは19世紀ごろですので、それ以前の気候変動については地球上に残された形跡から復元することが必要です。そうした方法の一つに南極やグリーンランドに存在する氷床の利用があります。これらの地域では冬季に降り積もった雪が夏になっても融けず、毎年降り積もった雪が氷の層を形成しています。これが氷床と呼ばれるもので、南極では平均2500 mの氷床があります。雪が押し固められて氷になるときに周囲の大気を取り込みます。そのため、氷床には太古の空気が閉じ込められていて、それを取り出して解析することで当時の気候がわかります。この解析により過去70万年ほどの気候が明らかにされてきました。空気を構成する窒素や酸素、アルゴン、二酸化炭素といった成分はいずれもハイドレートのゲストになります。そのため氷床の深部では空気が周囲の氷と反応して空気ハイドレートが生成しています。このことは過去の気候変動の解析に影響します。
私たちは、空気ハイドレートが生成する条件を測定して、実際の氷床中の空気ハイドレート分布との対応について調べる研究を行ってきました。
空調・冷凍機の作動媒体
ハイドレート生成は周囲に熱を放出する発熱反応、ハイドレート分解は周囲から熱を吸収する吸熱反応です。この反応を利用して、空調機(エアコン)や冷凍機の作動媒体としてハイドレートを利用することが検討されています。ハイドレートが生成・分解する条件はゲストによって異なりますので、ゲストの選定により空調・冷凍機に適した条件で生成・分解するハイドレートを作ることができます。
これまでに、適切なゲストの探索に向けた生成・分解条件の測定や、通常の冷凍庫よりも低温な条件で運転する冷凍機に適したアルコール類をゲストとするハイドレートについての研究を行ってきました。
ミストジェット
ミストジェットは学術的に厳密には水の液滴を噴霧した空気の衝突噴流のことを指します。空気にミストを噴霧することで冷却し、そうして冷たくなった空気を早い流速で物にあてることで効率的に冷却する技術です。熱は目に見えないものですが、それを取り除いたり加えたりして物の温度を適切に保つことはあらゆる技術において重要です。ミストジェットは水が蒸発する際に周囲から熱を吸収する性質を利用しています。空気に水を加えるというシンプルな機構ですが、優れた冷却効果があることがわかっています。
私たちの研究室では、ミストを少量だけ噴霧することで物を濡らすことなくどのくらいの冷却効果が得られるかについて研究してきました。そうすることで、電子機器やハイブリッド自動車のバッテリーの冷却に利用することを目指しています。
ハイブリッド自動車のバッテリー冷却
輸送分野で温室効果ガスである二酸化炭素の大気中への排出を削減するために、エンジンに加えてバッテリーとモーターを備えたハイブリッド自動車やモーターだけで駆動する電気自動車の普及が進められています。ガソリンに代わりバッテリーをエネルギー貯蔵に用いるこれらの自動車を効率的かつ安全に運用するためにはバッテリーの温度管理が重要です。この温度管理で外気温が高い場合には熱暴走を防ぎエネルギー効率を上げることができます。
私たちは、ハイブリッド自動車にエンジン稼働のために備え付けられた吸気機構とエアコンの運転で生じる水を組み合わせて、ミストジェットによりバッテリーを冷却する機構の伝熱特性について研究を行ってきました。すでにある機構の組み合わせで運用するので、コストを上昇させることなく効果的に冷却することができると見込まれます。