石田 肇  木村 亮介  泉水 奏  藤本真悟  

 研究概要 石田 肇

1. 縄文人ゲノム解析から見えてきた東ユーラシアの人類史
2. ネアンデルタール人胸郭は,現生人類と比較して,出生時からその特有の形態を示している
3. 沖縄県民の標準ゲノム配列情報の整備,および集団構造・集団形成史の解明
4. 解剖学的形態と関連する遺伝子多型の探索
5. 古代ゲノムで解明するバイカル地域人類集団の変遷

1.縄文人ゲノム解析から見えてきた東ユーラシアの人類史(石田 肇, 木村亮介)

東京大学と金沢大学を中心とする日本のゲノム研究者グループに琉球大学の研究者も参画し,それにコペンハーゲン大学・ダブリン大学の研究者が加わる国際共同研究チームが,愛知県伊川津貝塚遺跡出土の縄文人骨の全ゲノム配列を解析した。

その結果,縄文人は,アフリカ大陸からヒマラヤ山脈以南を通り,ユーラシア大陸東端に到達した最も古い系統の一つであることが明らかになった。

本研究の成果は,日本列島・本州に約2千500年前に縄文文化の中を生きていた人が,約2万6千年前より以前に,東南アジアにいた人類集団から分岐した「東ユーラシア基層集団(東アジア人と北東アジア人が分岐する以前の集団)」の根っこに位置する系統の子孫であることを明らかにした点にある。戻る↑


2. ネアンデルタール人胸郭は,現生人類と比較して,出生時からその特有の形態を示している(石田 肇)

ランスのボルドー大学を中心とする国際共同研究チームに,琉球大学の研究者も参画し,ネアンデルタール乳幼児の深く短い胸郭形態は遺伝的に決定されていて,ネアンデルタール人の大きな体を支える高い代謝と関連する可能性があることを明らかにした。

個体発生研究は,絶滅した種の重要な生物学的情報を理解するための手がかりを提供する。 現生人類と比較すると,ネアンデルタール成人の胸部はより短く,深く,そして広いことが分かっている。

これはネアンデルタール人の体の大きさに関連しており,エネルギーと酸素がより必要であるという仮定に一致する。これらの違いが出生時にすでに確立されているのか, 発育中に後で現れるのかは不明だった。

この疑問を解決するために,仮想復元ツールと幾何学的形態計測を使用して,生まれてから約3歳までのネアンデルタール乳幼児肋骨の3D形態を復元した。 使用したのは,メスマイスカヤ1,ルムスティエ2,デデリエ1,ロックデマルサルの4個体である。

結果は,ネアンデルタール人の比較的深く短い胸郭が,他の種特有の特徴と同様に,出生時にすでに存在していたことを示した。 この形態は,ホモ・エレクトスとの共有原始形質を表している可能性があり,よりエネルギーが必要であることに関連しているかもしれない。 戻る↑


3. 沖縄県民の標準ゲノム配列情報の整備,および集団構造・集団形成史の解明(木村亮介, 石田 肇)

沖縄県出身者の全ゲノムシーケンスデータを得るとともに,既存のデータとの統合を推進した。

集団構造および集団形成史の解明に取り組み,とくに八重山諸島集団を中心とした解析を進めた。 戻る↑


4. 解剖学的形態と関連する遺伝子多型の探索(木村亮介, 石田 肇)

歯,顔面,手などを対象に形態と関連する遺伝子多型の探索を進めている。

ゲノムワイド関連解析を進め,候補遺伝子領域の絞り込み,複数のサンプルセットにおけるメタ解析などを行なった。 戻る↑


5. 古代ゲノムで解明するバイカル地域人類集団の変遷(木村亮介, 石田 肇)

ロシアの研究機関と共同で,バイカル湖周辺における先史時代から現代にかけての人類集団の変遷を復元することを目的として,古人骨DNA解析を進めている。

新石器時代人骨から得られたDNAからライブラリーを作成し,次世代シーケンシングによりゲノムデータを得て,集団遺伝学解析を進めた。

主成分分析,ADMIXTUREを用いたクラスター解析,TreeMixを用いた系統樹解析,D統計量などを用いた解析の結果として,バイカル湖周辺の新石器時代人は,現代のシベリアを含む北アジア集団とも東アジア集団とも異なることが示された。

この結果から,後期旧石器時代および新石器時代以降における絶え間ない南北方向のヒトの拡散が示唆された。戻る↑