石田肇  木村亮介 泉水奏 土肥直美


研究概要(石田 肇)
1. デデリエ・ネアンデルタール下顎骨における前歯のサイズと配置関係
2. 離乳期の検討:炭素窒素同位体分析を用いたオホーツク文化人(5世紀から13世紀)の乳児食性
3. 顔面サイズと関連する遺伝子多型の探索
4. 成人男性の体毛の濃さと分布パターンに関連する遺伝的多型の探索
5. ヒトの手形態変異に関連する遺伝子とその分子機能の探索
6. CT画像を用いたヒト頭蓋の半自動的な形状評価


1.デデリエ・ネアンデルタール下顎骨における前歯のサイズと配置関係(石田肇)
現生人類のオトガイの進化的意義に関してはこれまでに生体力学や発話など様々な視点から解釈されてきた。
また近年の研究からは歯牙形成期の下顎と歯との空間的条件が, 成体での下顎骨形態の特徴と関連することが示唆されてきた。

本研究ではデデリエ1号と2号というともに約2歳のネアンデルタールの下顎骨CT画像を用いて, その形成段階にある切歯と犬歯のサイズや配置などを解析した。

デデリエの2個体は, 下顎骨正中断面のサイズは同年齢帯にある現代人の範囲内だが, 乳歯の歯根や内部の永久歯のサイズは現代人よりも全体的に大きいことが示された。
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2. 離乳期の検討:炭素窒素同位体分析を用いたオホーツク文化人(5世紀から13世紀)の乳児食性(石田肇)
サハリン南部, 北海道オホーツク沿岸, 千島列島に5世紀から13世紀に反映した, 海獣漁労民であるオホーツク文化は, 北海道北部からオホーツク沿岸を急速に南下し, 北海道東部にその領域を拡大した。

北海道東部にあるモヨロ貝塚出土の乳児の食性復元を行った。窒素同位体解析の結果, 離乳の終了は1.8歳となり, これは,他の北方の狩猟民よりも早い。

離乳年齢は, 出生率に影響する重要な因子であり, 短い授乳期は高い出生率をもたらす。さらに,この驟雨団は栄養が良かった可能性があり, 人口増加をもとに新天地へ広がって行ったのであろう。
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3. 顔面サイズと関連する遺伝子多型の探索(木村亮介, 佐藤丈寛(現金沢大学), 山口今日子(現リバプールジョンムーア大学), 石田肇)
ヒトの顔は, 個体ごとに多様な形態をもち, そのサイズにも大きな個体差が存在する。

本研究では, 三次元デジタルスキャナを導入して顔面形態を詳細に解析しながら顔面サイズを評価し, DNAマイクロアレイを用いたゲノムワイド関連解析によって, 顔面サイズと関連する遺伝子多型の同定を試みた。

沖縄在住の若年成人734名を対象として, 顔面の三次元画像を得た後, 1)顔面上に23の特徴点をプロットし, 2)2,596点からなるポリゴンモデルを用いて, 全ての顔面画像について相同モデル化を行った。
そして, ポリゴンの頂点のXYZ座標をデータとして主成分分析を行うことで, 共変動する形態成分を抽出し, 第一主成分(PC1)として顔面サイズを表す成分を得た。 PC1を従属変数, 性別, 年齢, 身長, BMI, 出身(琉球・本土を表すゲノムの主成分)の5つを説明変数として重回帰分析を行ったところ, 男性, 高身長, 高BMIが顔面サイズを有意に大きくし, 決定係数は0.60であった。

つまり, 顔面サイズの分散の40%はこれらの因子とは独立に変動することが示された。 

これら5つの因子を共変数として, PC1についてゲノムワイド関連解析を行った結果, 有意水準(P < 5×10-8)をクリアするSNPは観察されなかったが,  P値の低いもの(P < 1×10-6)の中に, multiple epidermal growth factor-like-domeins 6(MEGF6)遺伝子の非同義多型Arg916Leu(rs7553399)などが含まれていた。
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4. 成人男性の体毛の濃さと分布パターンに関連する遺伝的多型の探索(佐藤丈寛, 山口今日子, 石田肇, 木村亮介)
ヒトの体毛の濃さと分布パターンには個人差や集団差がみられる。
これらの形質には性ホルモンレベルが部分的に関与しているとの報告があるが, その他の要因は完全には解明されていない。

本研究では沖縄県在住の男性における体毛の濃さと分布パターンの遺伝的基盤を解明することを目的として, 前腕の毛の濃さと中指節毛の分布についてゲノムワイド関連解析を実施した。

結果として, 前腕の毛の濃さについては6番染色体ETV7上に, 中指節毛については5番染色体MEGF10上に有意な関連を示すSNPが検出された。 今後, 異なるサンプルセットを用いて関連の再現性を確認する必要がある。
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5. ヒトの手形態変異に関連する遺伝子とその分子機能の探索(米須学美, 木村亮介, 佐藤丈寛, 山口今日子, 石田肇)
本研究では, 沖縄在住の日本人767名を対象としてゲノムワイド関連解析(GWAS)により手形態の個体差に関連するSNPの探索を行った。

次に手の形態の形状に関連する分子機能を明らかにするため, GWASにおいてP<1.0×10-3を示したSNPに関して, そのSNPを含む遺伝子, あるいはSNPに最も近傍の遺伝子を特定しEnrichment解析を行った。

その結果, Biological processの分類でmulticellular organismal development(P=1.1×10-18), Molecular functionの分類ではplasma membrane(P=6.1×10-21)において強い関連が見られた。 ゲノムワイド有意水準(P<1.0×10-8)を満たすSNPは少数しか得られなかったが, Enrichment解析を行うことで手の形態に関連する遺伝子群がもつ分子機能に関して知見を得ることができた。
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6. CT画像を用いたヒト頭蓋の半自動的な形状評価(伊藤毅(現京都大学), 木村亮介, 龍康殿あづさ, 石田肇, 深瀬均(北海道大学)他)
ヒト頭部形態の個人差の遺伝要因の多くは明らかにされていない。

ゲノムワイド関連解析は, 表現型変異の関連遺伝子を探索する強力なアプローチであるが, 通常膨大なサンプルを必要とし, また検出力を高めるために高解像度の表現型タイピングが望まれる。

本研究は, 大サンプルを対象とした効率的な解析に向けて, CT画像から頭蓋形状データを半自動的に取得する方法の検討とその精度の評価を行った。

elastixプログラムを用いて参照個体から複数の対象個体へのボリュームデータの変形関数を計算することで, 頭蓋の形状を捉えるセミランドマークを自動取得した。
これを独立に2回行い, 得られた結果の差異を定量的に評価することで, 本手法の再現性を示した。頭蓋形状の年齢差・性差・地域差(琉球―本土間)などについて解析した。
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