石田 肇  木村 亮介  泉水 奏  小金淵 佳江  澤藤 りかい

 研究概要 石田 肇

1. 食道および気管・気管支との位置関係に基づいた気管支動脈の解剖学的分類
2. TNFSF15が細菌叢を介してクローン病のリスクを高めている
3. ヒトの光感受性の個人差と関係する時計遺伝子~祖先タイプは光感受性の低いタイプである
4. 顎顔面形態および歯形成と関連する遺伝子多型の同定

1.食道および気管・気管支との位置関係に基づいた気管支動脈の解剖学的分類(石田 肇, 木村亮介)

食道癌根治術において,リンパ節郭清を徹底することにより治療成績の向上が期待されるが,同時に気道への血流遮断による虚血から重篤な呼吸器合併症を引き起こす可能性がある。

より安全で根治性の高い手術を遂行するためには, 気道の栄養血管である気管支動脈の解剖学的知識が重要である。

気管支動脈は非常にバリエーションが豊富な血管であり,臨床での必要性から, 近年MDCTを用いた解剖学的研究が行われている。

一方, 遺体を用いた肉眼解剖学的な研究は最近ではほとんど行われていない。 本研究では成人遺体を用いて気管支動脈の解剖学的特徴について, 特に縦隔内での走行経路に焦点を当てて検討した。

72体の遺体において100本の右気管支動脈, 127本の左気管支動脈を剖出した。

右気管支動脈を1本, 左気管支動脈を2本持つ個体が最も多かった。

右気管支動脈は肋間動脈との共通幹(60本,60%), 左右気管支動脈共通幹(28本, 28%), 胸部大動脈(9本, 9%), 右鎖骨下動脈(2本, 2%), 左鎖骨下動脈(1本, 1%)から分岐していた。

左気管支動脈は胸部大動脈(98本, 77.2%), 左右気管支動脈共通幹(29本, 22.8%)から分岐していた。

今回剖出された気管支動脈227本の縦隔内における走行経路は次の4型に分類された。

I型)食道の右側を走行して気管・気管支に至るもの(61本, 26.9%)。 II型)食道の左側を走行して気管・気管支の背側に至るもの(98本, 43.2%)。 III型)食道の左側を走行して気管・気管支の腹側に至るもの(65本, 28.6%)。 IV型)鎖骨下動脈より分岐して気管・気管支の腹側を走行するもの(3本, 1.3%)。 I型およびIV型はすべてが右気管支動脈であったが, 食道左側を走行するII型では8本(8.2%), III型では28本(43.1%)が右気管支動脈であった。

今回の研究を含めた肉眼解剖学的研究とMDCTを用いた研究を比較すると, 縦隔内での走行経路が短いII 型の左気管支動脈はMDCTでは十分に描出されていない可能性が示唆された。
Hayasaka K, Ishida H, Kimura R, Nishimaki T.
A new anatomical classification of the bronchial arteries based on the spatial relationships to the esophagus and the tracheo-bronchus.
Surgery Today, 47: 883-890, 2017. DOI 10.1007/s00595-016-1450-1. 戻る↑

2. TNFSF15が細菌叢を介してクローン病のリスクを高めている(石田 肇, 木村亮介)

本研究では,クローン病におけるヒトの遺伝子と細菌の相互作用を明らかにすることにより, 予防及び治療における新たなバイオマーカーを同定することを目指した。

琉球大学医学部附属病院においてクローン病患者, クローン病と同じ炎症性腸疾患に分類されている潰瘍性大腸炎患者, 健常者からヒトのゲノムDNAと口腔内細菌叢のDNAを採取した。

また, 口腔内における細菌組成は腸内においても反映されていることがこれまでの研究から示されている。

そこで, 本州においてクローン病に関連することが報告されているTNFSF15に着目し, 口腔内における細菌叢を手がかりに疾患における遺伝子と細菌の相互作用を検証した。

TNFSF15
における6個のSNPsに関して患者と健常者で頻度を比較したところ, クローン病患者ではSNPサイトにおける一方の塩基(アレル)が健常者と比べて10%ほど高い頻度で存在しており, 沖縄におけるクローン病においてもその発症リスクを高めていることが明らかになった。

その一方で, 潰瘍性大腸炎患者における頻度は健常者とほとんど変わらず, TNFSF15は炎症性腸疾患の中でもクローン病にのみ関連することが示された。

本研究グループは, 2014年に口腔内細菌叢がクローン病患者と健常者で異なることを明らかにしている。

特に, Prevotellaと呼ばれる細菌群がクローン病患者において有意に高く存在することを示した。

そこで, 本研究においてTNFSF15Prevotellaとの関連性を調べたところ, TNFSF15のリスクアレルをもつことにより,Prevotellaの量が増加することが明らかになった。

一方,TNFSF15の発症リスクはPrevotellaの量によって異なり, Prevotellaの量が少ない場合は発症リスクがほとんどなくなることが示された。

たとえTNFSF15のリスクアレルをもっていたとしても, 細菌組成を制御することによってクローン病の発症リスクを軽減させることができることを示唆しており, 臨床的にも重要な知見であるといえる。

Nakagome S, Chinen H, Iraha A, Hokama A, Takeyama Y, Sakisaka S, Matsui T, Kidd JR, Kidd KK, Said HS, Suda W, Morita H, Hattori M, Hanihara T, Kimura R, Ishida H, Fujita J, Kinjo F, Mano S, Oota H.
Confounding effects of microbiome on the susceptibility of TNFSF15 to Crohn's disease in the Ryukyu Islands.
Human Genetics,136: 387-397, 2017.  doi:10.1007/s00439-017-1764-0. 戻る↑

3. ヒトの光感受性の個人差と関係する時計遺伝子~祖先タイプは光感受性の低いタイプである(石田 肇, 木村亮介)

ヒトの光感受性の指標であるメラトニン分泌抑制に見られる個人差に時計遺伝子の1つであるPERIOD2(PER2)遺伝子のバリエーションが関与していることを示した。

また, そのPER2遺伝子のバリエーションのうち, アフリカに多い祖先タイプは光感受性の低いタイプで, 約7万年前のホモ・サピエンスの出アフリカ後, 光感受性の高いタイプが頻度を増した可能性を示した。

メラトニン分泌抑制は体内時計とは関係なく光刺激によって起こることが常識であった。

本研究の新規性は, これまでのこの知見と反して, 体内時計に関与するPER2遺伝子の多型が, 光刺激に対するメラトニン分泌抑制率の個人差と関係していることを示したことである。

ホモ・サピエンスが世界中に拡散する際に様々な光環境に適応する必要があったと想像される。

本研究の成果は,その光環境適応をPER2遺伝子多型は担った可能性を示唆する。 今後は, さまざまな光環境のもとでどのような適応進化が進んだか, その詳細を明らかにしたいと考えている。

Akiyama T, Katsumura T, Nakagome S, Lee S, Joh K, Soejima H, Fujimoto K, Kimura R, Ishida H, Hanihara T, Yasukouchi A, Satta Y, Higuchi S, Oota H.
An ancestral haplotype of the human PERIOD2 gene associated with reduced sensitivity to light-induced melatonin suppression.
PLoS ONE, 2017. DOI: 10.1317/journal.pone.0178373. 戻る↑

4. 顎顔面形態および歯形成と関連する遺伝子多型の同定(木村亮介, 石田 肇)

候補遺伝子アプローチにより、顎顔面形態と関連する遺伝子多型の同定を行った。

日本人216名と韓国人227名の頭部X線規格写真を用いて顎顔面形態の計測を行い, FGFR1多型との関連を調べたところ, rs13317およびrs6996321の二つの多型が, 中顔面の突出・陥凹と関連していることを示した。

また, 日本人178名のコーンビームCT画像を用いて, GHR多型と下顎形態との関連を調べたところ, rs6180が左右の筋突起間の幅と有意に関連していることを示した。

永久歯先天欠如の原因遺伝子を探索するため孤発性患者(日本人51名, 韓国人32名)を対象にエキソーム解析を行ったところ, PAX9, AXIN2, EDA, EDAR, WNT10A, BMP2, GREM2など既知の遺伝子に変異が見つかった他, FAM64, NFATC3, CDH23など新規の候補が浮かび上がった。

Adel M, Yamaguchi T, Tomita D, Nakawaki T, Kim YI, Hikita Y, Haga S, Takahashi M, Nadim MA, Kawaguchi A, Isa M, El-Kenany WH, El-Kad A, Park SB, Ishida H, Maki K,Kimura R.
Contribution of FGFR1 variants to craniofacial variations in East Asians.
PLoS ONE, 2017. DOI:10.1371/journal.pone.0170645.

Nakawaki T, Yamaguchi T, Isa M, Kawaguchi A, Tomita D, Hikita Y, Suzuki-Tomoyasu Y, Adel M, Ishida H, Maki K, Kimura R.
Growth hormone receptor gene variant and three-dimensional mandibular morphology.
Angle Orthodontist 87: 68-73, 2017.

Yamaguchi T, Hosomichi K, Yano K, Kim YI, Nakaoka H, Kimura R, Otsuka H, Nonaka N, Haga S, Takahashi M, Shirota T, Kikkawa Y, Yamada A, Kamijo R, Park SB, Nakamura M, Maki K, Inoue I.
Comprehensive genetic exploration of selective tooth agenesis of mandibular incisors by exome sequencing.
Human Genome Variation 4: 17005, 2017. 戻る↑