〜衛生学・公衆衛生学に新しい風を求む〜

琉球大学 大学院 医学研究科 衛生学・公衆衛生学講座
教授 青木 一雄

    衛生学、公衆衛生学の原点は「人々の健康の保持・増進を図る」ことです。 その研究分野は多岐にわたり、感染症(SARS、鳥インフルエンザ、HIV、BSE、 種々ワクチンの任意接種化による問題)、環境保健(CO2による地球温暖化、 廃棄物、内分泌撹乱化学物質)、学校保健、小児保健、母子保健、産業保健 (長時間労働による健康障害、メンタルヘルス、有害業務の適正管理)、 国際保健(貧困、飢餓、HIV、健康教育)など、健康に関わるあらゆる事象に そのテーマが見出されます。現在、社会・経済状況や人々の生活習慣の急激な 変化に伴い、衛生学・公衆衛生学の基礎的及び実験的研究を通して地域住民や コミュニュティーに密着した実践的健康保持・増進事業に寄与することが切望 されています。
    この10年間で全国の大学医学部は、講座の改組や再編など大きな変化を遂げてきました。 社会医学においては、医学部から公衆衛生学講座や衛生学講座の名前が消え、 環境保健(医学)、予防医学、産業保健(医学)分野に衣替えをしたところもあります。 しかし、これは社会の実情が、既存の学問分野の枠を超えて複数の学問分野の専門家が 共に協力し合う学際的研究が必要な時代へと移り変わってきたためであり、決して研究の 領域や教育の方向性が変わったためではありません。特に近年では個人に対する テーラーメード医療が求められていますが、人々の健康の保持・増進を考える時、 個人と集団は表裏一体であり、集団に対する予防対策や健康教育、そしてそれに伴う 行動変容についての研究・教育を行う衛生学、公衆衛生学がますます重要な分野の 一つであり続けることは明らかです。
    私は1953年に東京で生まれ、地元の大学、大学院で数学を専攻し、27年間を東京都で 過ごしました。その後大分医科大学(現在の大分大学)医学部に入学し、医学部学生として 6年間学んだ後、母校の公衆・衛生医学講座に21年間所属し、計27年間を大分県で 過ごしました。そして、27年サイクルの3周期目の今年(平成20年)4月に当分野教授に 着任しました。私は大分時代から「社会全体(集団)の効果的な疾病予防対策・方策を 探求したい」という思いを常に念頭にフィールドや実験室での研究を進めてきましたが、 近頃では業績のための研究を重視する傾向が強くなってきているのではないかと危惧 しています。「このような今こそ、衛生学、公衆衛生学の原点に立ち戻って、研究や教育を 考え直す時期に来ているのではないか」という強い思いから、当分野は今年7月より 「環境生態医学分野」から「衛生学・公衆衛生学分野」に分野名を変更しました。 また、9月からの医学科のカリキュラムを一新し、教室員一同、心を新たに教育・研究に 取り組んでいます。社会のニーズは非常に大きく、取り組まねばならない課題の多い分野 ですが、共に次世代の人々に「安全で安心して暮らすことのできる社会環境」を提供して いきませんか? 衛生学、公衆衛生学に興味や関心のある方は、お気軽に当講座を お訪ねください。教室員一同、たくさんの方々のご来訪をお待ちしています。

平成20年4月1日