教授挨拶



公衆衛生学・疫学講座　教授　中村幸志

　令和元年7月1日より公衆衛生学・疫学講座（～令和6年3月は衛生学・公衆衛生学講座）を主宰しています中村幸志と申します。当講座は医学部医学科の設立時から現在に至るまでに、歴代の教授の志向と関連して名称が変わりながらも唯一の公衆衛生学系講座（多くの他大学では分かれている公衆衛生学と衛生学を統合した講座）に位置づけられる講座です。私は公衆衛生学を専門とし、これを前面に押し出すべく講座名を変更しました。
公衆衛生学（Public Health）は社会医学や予防医学に位置づけられ、「人と環境（特に社会）に注目し、組織的アプローチによって、人々（集団）の疾病予防・健康増進を図る」実践的な学問です。公衆衛生には自治体をはじめとするさまざまな立場の方々が携わっていますが、当講座のようなアカデミアは公衆衛生上の諸課題を明らかにする疫学（Epidemiology）の専門家（Epidemiologist）として主に学術活動（詳細は後述および研究内容欄）に励みつつ、社会貢献活動なども行っています。また、当講座は沖縄県内で唯一の医育機関（大学院医学研究科／医学部医学科）内の公衆衛生学系講座として臨床（医療）とのつながりを重視した公衆衛生学・疫学の研究、教育および社会貢献活動を志向しています。本来、公衆衛生学という学問の内容は多岐にわたりますが、アカデミアは研究や実践に関して自身の専門領域を中心に社会における課題の潮流も鑑みて取り組んでいます。したがって、当講座ホームページを通じて、当講座の現況をご理解いただけますと幸甚です。
　私は大学卒業後に一般内科を中心にプライマリケアの診療に従事する中で公衆衛生学の重要性に気づき、関心が高じて公衆衛生学のアカデミアに転向しました。この経緯から、私は循環器系領域の疾病（心疾患、脳卒中、その危険因子である高血圧、糖・脂質代謝異常）やがんを中心とするいわゆる生活習慣病の予防に特に強い関心を持ち、県外のいくつかの大学にて研究などの研鑽を積んでまいりました。これに関する疫学研究とは、一般人集団を観察して、生活習慣・バイオマーカーと疾病保有・発症の関連を探索するものであり、今流行のデータサイエンスの一種です。医学の基礎系・臨床系講座や企業などとの協働で疫学研究を展開した経験もあります。研究のみならず、地域・職域などにて主に成人の健康づくりに関する実践にも積極的に取り組んでまいりました。ご縁あって赴いた沖縄県で、私の専門領域である生活習慣・社会環境と健康の関係に注目した疫学研究と実践を展開していく所存です。とりわけ、かつて健康長寿県であった沖縄県での生活習慣病蔓延に注目しています。
　教育に関して、学生の大多数は臨床医となることを前提とする学部教育では臨床医に必要な公衆衛生学・疫学の素養の修得を図るとともに、専門性を追究する大学院教育の修士課程では疫学に立脚した生活習慣病予防の学修、博士課程では生活習慣病予防の疫学研究者と称するに相応しい素養の修得を図ります。社会貢献に関して、自治体、事業所、学校などで人々の健康づくりを推進する皆様、琉大病院をはじめとする医療機関の皆様、職能団体の皆様、そして何より県民の皆様とともに健康長寿県復活に取り組みます。当講座の役割は、人々の健康づくりに資する科学的根拠のある情報を広く発信するとともに、要請に応じて専門的知識の供与や見解の具申を中心に関係者の実践を支援していくことと考えています。
　当講座ホームページをご覧になり、公衆衛生学、特に生活習慣病予防に関心を持って一緒に学び、活動していける仲間が増えることを願っています。公衆衛生・プライマリケア領域の調査・研究についての意見交換・協力、学位取得を目指す大学院への入学、健康づくり事業への協力などをご希望される方はまずお気軽に当講座へお声かけください。どうぞよろしくお願い申し上げます。

<略歴>
平成8年　 自治医科大学医学部卒業
　　　　　 大津赤十字病院　研修医師
平成10年　伊香郡病院組合立湖北総合病院内科　医師
平成12年　びわ町国民健康保険診療所　所長
平成16年　伊吹町国民健康保険吉槻診療所　所長
平成17年　滋賀医科大学医学部附属病院内分泌代謝内科　医員
　　　　　 同　医学部福祉保健医学（現.公衆衛生学）　特任助手
平成18年　博士（医学）取得（滋賀医科大学）
　　　　　 豪州ジョージ国際保健研究所　客員研究員
平成20年　金沢医科大学医学部健康増進予防医学（現.公衆衛生学）　講師
平成22年　 同　准教授
平成27年　北海道大学医学研究科（現.医学研究院）公衆衛生学　准教授
令和元年　 現職


＜資格など＞
医師、 社会医学系専門医・指導医（社会医学系専門医協会認定） 【沖縄社会医学系専門医研修プログラム　統括責任者】、 上級疫学専門家（日本疫学会認定）、 公衆衛生専門家（日本公衆衛生学会認定）、 産業医（日本医師会認定）

＜本学着任までの主な業績＞
○Nakamura K, Okamura T, Hayakawa T, Hozawa A, Kadowaki T, Murakami Y, Kita Y, Okayama A, Ueshima H; NIPPON DATA80, 90 Research Group: The proportion of individuals with obesity-induced hypertension among total hypertensives in a general Japanese population: NIPPON DATA80, 90. Eur J Epidemiol, 22: 691-698, 2007

○Nakamura K, Barzi F, Lam TH, Huxley R, Feigin VL, Ueshima H, Woo J, Gu D, Ohkubo T, Lawes CM, Suh I, Woodward M; Asia Pacific Cohort Studies Collaboration: Cigarette smoking, systolic blood pressure, and cardiovascular diseases in the Asia-Pacific region. Stroke, 39: 1694-1702, 2008

○Nakamura K, Sakurai M, Miura K, Morikawa Y, Ishizaki M, Yoshita K, Kido T, Naruse Y, Nakagawa H: Homeostasis model assessment of insulin resistance and the risk of cardiovascular events in middle-aged non-diabetic Japanese men. Diabetologia, 53: 1894-1902, 2010

○Nakamura K, Miura K, Nakagawa H, Okamura T, Okuda N, Nishimura K, Yasumura S, Sakata K, Hidaka H, Okayama A: Treated and untreated hypertension, hospitalization, and medical expenditure: an epidemiological study in 314622 beneficiaries of the medical insurance system in Japan. J Hypertens, 31: 1032-1042, 2013

○Nakamura K, Watanabe M, Okuda N, Yoshita K, Kabayama M, Torii S, Kuribayashi T, Itai K, Kamide K, Miura K, Okayama A: The influence of the Japanese nationwide cardiovascular prevention system health guidance on smoking cessation among smokers: a propensity score matching analysis. J Atheroscler Thromb, 25: 323-334, 2018

○Nakamura K, Hui SP, Ukawa S, Okada E, Nakagawa T, Okabe H, Chen Z, Miura Y, Chiba H, Tamakoshi A: Serum 25-hydroxyvitamin D3 levels and poor sleep quality in a Japanese population: the DOSANCO Health Study. Sleep Med, 57: 135-140, 2019