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研究背景

Motivations
with Energy
and Environment

研究の背景となる技術について紹介します。いずれの技術もエネルギー環境工学と関連があります。

現在行っている研究

現在研究室で進めている研究です。卒業研究のテーマになっています。

海水淡水化/製塩

世界的な人口増加や産業の発展にともなって水不足が深刻化しています。中東や北アフリカといった地域ではこの問題が顕著です。沖縄県でも、とくに離島地域では水不足に陥ることが多くあります。よって地球上の水の97.5 %を占める海水を淡水化する技術開発が長く行われてきました。

ハイドレートは「結晶構造に塩分を取り込まない」という性質があるため、海水淡水化に使用可能であることが分かっています。私たちの研究室では、ハイドレートの生成・分解によって海水を淡水と食塩とに分離して、海水淡水化と製塩を同時に行う技術開発を行っています。2つの技術の運用を同時に行うことでエネルギーの面でも経済性の面でもメリットがあると見込まれます。

この海水淡水化/製塩技術は世界に通用する技術でもあり、離島地域における淡水不足の解消と産業としての製塩の効率向上という地域課題の解決に寄与する技術でもあります。

二酸化炭素分離回収

カーボンニュートラル社会の実現に向けて再生可能エネルギーの利用が押し進められていますが、依然として化石燃料が人類のエネルギー源として広く利用されています。化石燃料の消費により生じる二酸化炭素を回収して貯留することができると大気への排出を抑えて地球温暖化への影響を下げることができます。

ハイドレートは「混合ガスから生成すると特定の成分を優先的に取り込む」という性質があり、排ガスと水とを反応させてハイドレートを生成してから回収して分解すると二酸化炭素濃度の高いガスが得られます。こうして得られたガスを貯留することで大気中への二酸化炭素排出を減らすことができます。この技術は海岸沿いにあり、水を多く必要とする工業地帯が併設することが多い火力発電所や製鉄所といった大規模な二酸化炭素排出源での活躍が期待できます。私たちは二酸化炭素分離と海水淡水化を組み合わせた技術について研究しています。

クラスレートハイドレートの物理化学/熱力学

ゲストの多くは水に溶けにくいため、ハイドレートの生成・分解は気体と液体、固体が混ざりあって複数の成分が反応するという複雑な状態で起こります。そのため、ハイドレート生成系で起こる現象を理解するためには多相多成分系における物理化学や熱力学の理解が必要です。物理化学の側面から、ハイドレート中の分子の配列がゲストによってどのように変わるかという情報がハイドレートの物性を決める要因になります。また、熱力学の導入によりハイドレートが生成・分解する条件という実験的に明らかになる情報と理論とを結び付けることができます。

本研究室では、ハイドレートの物理化学や熱力学を理解するための研究を進めています。基礎科学といえますが、こうした研究を進め続けることで将来的にハイドレート関連技術がさらに広がっていくと期待しています。

ハイブリッド自動車のバッテリー冷却

ハイブリッド自動車のバッテリー冷却

輸送分野で温室効果ガスである二酸化炭素の大気中への排出を削減するために、エンジンに加えてバッテリーとモーターを備えたハイブリッド自動車やモーターだけで駆動する電気自動車の普及が進められています。ガソリンに代わりバッテリーをエネルギー貯蔵に用いるこれらの自動車を効率的かつ安全に運用するためにはバッテリーの温度管理が重要です。この温度管理で外気温が高い場合には熱暴走を防ぎエネルギー効率を上げることができます。

私たちは、ハイブリッド自動車にエンジン稼働のために備え付けられた吸気機構とエアコンの運転で生じる水を組み合わせて、ミストジェットによりバッテリーを冷却する機構の伝熱特性について研究を行っています。すでにある機構の組み合わせで運用するので、コストを上昇させることなく効果的に冷却することができると見込まれます。

学生実験の開発

エネルギー環境工学実験I(2年次後期・必修)・II(3年次前期・必修)でハイドレートを利用した学生実験を提供しています。テーマは2年ごとに更新しています。

これまでにTBABハイドレートの結晶成長観察実験(2018年度後期から2021年度前期)、二酸化炭素ハイドレートの生成実験(2021年度後期から2022年度前期)、ハイドレートを使用した二酸化炭素分離実験(2022年度後期から)を行ってきました。

ハイドレートはエネルギーや環境に関わる多くの技術での利用に向けて研究開発がされていて、なおかつ大学の講義1コマに相当する90分程度で十分に生成することが可能です。水はもちろんのこと、ゲストも身近な物質が多いので用意することが難しくありません。これらのことから、ハイドレートはこれからの時代の学生実験のテーマに相応しいものであると考えています。すでに学術論文化したTBABハイドレートの結晶成長観察実験について、実際に使用したテキストを公開します。

これまでの研究

これまでに研究室で行ってきた研究です。今後再び卒業研究のテーマとして提供する可能性があります。

天然ガス輸送・貯蔵

天然ガスは石炭や石油に比べて二酸化炭素排出量が少ないため、これから使用量がさらに増えると予測されています。一方で標準状態では気体であるため、体積あたりのエネルギー量が大きくないということが欠点としてあります。

日本は天然ガスを液化天然ガス(Liquified Natural Gas, LNG)の形で輸入しています。LNGは気体に比べて600倍の密度になる一方で、非常に低温であることから製造・輸送・貯蔵を行う施設がその低温に耐えられる素材で作られる必要があります。

LNGに代わる天然ガスの輸送・貯蔵手段として天然ガスハイドレート(Natural Gas Hydrates, NGH)があります。NGHは気体に比べた密度は160倍程度ですが、比較的高温で保存可能であることがわかっています。私たちはこれまでにNGHを保存する条件でのハイドレートの生成・分解条件を測定する研究を行ってきました。

アルコールハイドレート

一般にハイドレートのゲストは疎水性、すなわち水にあまり溶けない物質です。疎水性のゲスト分子がハイドレートの籠の中に入ることで結晶構造を安定化させるためです。長年アルコール類のように親水性、水によく溶ける物質はゲストにならないとされてきました。中でもエタノールやプロパノールといった分子サイズの小さいアルコールはハイドレートの生成を阻害する物質とみなされてきました。

私たちのこれまでの研究で、エタノールやプロパノールがメタンとともにハイドレートのゲストとなることが明らかになりました。このことは、アルコール類のハイドレート生成阻害剤としての使用に対して影響があるとともに、親水性の物質がゲストとなった時にハイドレートの籠を構成する水分子とどのような相互作用を持つかという物理化学の観点からも面白い現象といえます。

氷床の空気ハイドレート

地球温暖化を議論するうえで過去に地球がどのような気候変動を経て来たかを明らかにすることは重要です。人類が現在の形で気象観測を行うようになったのは19世紀ごろですので、それ以前の気候変動については地球上に残された形跡から復元することが必要です。そうした方法の一つに南極やグリーンランドに存在する氷床の利用があります。これらの地域では冬季に降り積もった雪が夏になっても融けず、毎年降り積もった雪が氷の層を形成しています。これが氷床と呼ばれるもので、南極では平均2500 mの氷床があります。雪が押し固められて氷になるときに周囲の大気を取り込みます。そのため、氷床には太古の空気が閉じ込められていて、それを取り出して解析することで当時の気候がわかります。この解析により過去70万年ほどの気候が明らかにされてきました。空気を構成する窒素や酸素、アルゴン、二酸化炭素といった成分はいずれもハイドレートのゲストになります。そのため氷床の深部では空気が周囲の氷と反応して空気ハイドレートが生成しています。このことは過去の気候変動の解析に影響します。

私たちは、空気ハイドレートが生成する条件を測定して、実際の氷床中の空気ハイドレート分布との対応について調べる研究を行ってきました。

空調・冷凍機の作動媒体

ハイドレート生成は周囲に熱を放出する発熱反応、ハイドレート分解は周囲から熱を吸収する吸熱反応です。この反応を利用して、空調機(エアコン)や冷凍機の作動媒体としてハイドレートを利用することが検討されています。ハイドレートが生成・分解する条件はゲストによって異なりますので、ゲストの選定により空調・冷凍機に適した条件で生成・分解するハイドレートを作ることができます。

これまでに、適切なゲストの探索に向けた生成・分解条件の測定や、通常の冷凍庫よりも低温な条件で運転する冷凍機に適したアルコール類をゲストとするハイドレートについての研究を行ってきました。

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研究手法