このページでは、大瀧研究室のマスコットキャラクター「ヤマミン」が研究の解説をしたり、皆様からの質問等にお答えしていきます。
ヤマミンは、イラストレータのoboroさんに描いていただきました。
oboroさんの公式ホームページはこちら→KAZEGOYOMI-風暦-
Q & A (2015/6/8更新)
ここでは、皆様から頂いたご質問に、簡潔にお答えします。
写真やグラフなどを用いた詳細な解説をファイルにまとめたものもありますので、ダウンロードして読んでもらえればと思います。→Q&A詳細解説
また、原子力教育を考える会の皆さんが子ども向けの解説を作成してくださっています。会のホームページ「よくわかる原子力」に掲載されていますので、こちらもご利用ください。
Q1. 放射能汚染の影響を調べるのに、どうしてヤマトシジミを使ったのですか?
A1. ヤマトシジミは小型で、飼育もしやすく、チョウの中でも取り扱いやすい種だと言えます。そのため大瀧研究室では、事故以前からヤマトシジミを実験に使っていたという経緯があります。今回の放射能汚染問題においても、これまでに行ってきた研究の実績や経験があったからこそ、実行できた研究だと言えます。
また、庭先や公園、畑、田んぼなどといった人の生活環境に近いところに多く生息しています。そのため、ヤマトシジミを調べることで、私たちの身の回りの環境がどのように変化しているかを調べることができます。さらに、ヤマトシジミは北海道を除く日本の広い地域で生息しているため、福島だけでなく広い地域で調査できることも利点の一つだと言えます。
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Q2. 北に行くほどヤマトシジミの異常率が高くなると聞きました。東北地方では、放射線とは関係なく、もともと斑紋異常が多いのではないですか?
A2. ヤマトシジミは近年、分布域を北へ拡大させていることが報告されています。そのため、北に行くほど異常が多くなると考える人もいるようです。しかし実際には、分布域の北限近くに生息しているヤマトシジミにおいて、斑紋変化以外の形態異常が増加しているという報告は今のところ出ていません。詳細の方にはグラフを掲載していますが、今回の調査でも北に行くほど異常率が高くなるという結果は得られていません。ですので、北の個体ほど異常が多いという認識は誤りだと言えます。
また、東北全体において異常率が高いという事実はありません。北限個体の色模様異常に関する論文においても記述されておりますように、ヤマトシジミの野外個体において観察された斑紋異常個体の異常発生は、生息域の最北限である青森県の深浦町(福島第一原子力発電所より約370km北方)というごく限られた地域のみで観察された非常に特別な現象です。
同様にヤマトシジミの最北限である青森県八戸市においては異常個体の出現は観察されておりません。これらの北限個体群の斑紋異常につきましても現在研究を進めているところです。
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Q3. 青森県深浦町で見られる北限個体の異常と今回福島で見られた異常の違いは何ですか?
A3. 北限個体群で出現する異常は、これまでの研究により決まった色模様変化が出現することがわかっています(表現型可塑性)。これは実験室内でのコールドショック(低温処理)によっても再現され、3種類のパターンに大別出来るものです。福島地方の個体ではコールドショックとは全く異なった無秩序な色模様の異常個体が出現しています。さらにコールドショックでは出現しない翅以外の様々な形態異常も出現しています。
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Q4. 異常個体が出たのは、飼育方法が悪かったり、世話が十分でなかったからではないのですか?
A4. ヤマトシジミの飼育法について記載した論文において報告してありますように、私たちの飼育システムでは、平常時における死亡率(異常率)は10%未満となっています。
従来、この飼育システムでは福島地方の蝶で観察されたような色模様異常、形態異常等の異常個体は出現していません。
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Q5. 翅(はね)サイズの小型化は寒さのために起きたのではないですか?
A5. 一般的に昆虫の体サイズは外気温の低下に伴って大型化することが知られています。
それに反して福島地方の蝶では翅サイズ(体サイズ)の小型化が観察されています。また、調査の最北地である白石市の個体ではサイズの縮小は観察されていません。
さらに翅サイズの縮小は放射線照射実験および内部被爆実験においても観察されており、放射線によりサイズの縮小が生じた可能性が強く疑われます。
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Q6. 福島で見られた異常というのは、地域変異の範囲なのではないですか?
A6. 放射能汚染地域で見られた異常には、地域変異の現れやすい斑紋の異常もありましたが、地域変異では説明できないような翅(はね)や脚、触角、複眼(目)の形態異常もみられました。これらの器官は生存していくうえで非常に重要な器官なので、その異常がある地域でもともと存在していたものだと説明するのは非常に難しいです。また、異常の出ている部位だけでなく、その異常の程度も非常に深刻な個体もいました。さらに、次世代を残す能力の低い個体もみられました。それらの理由から、もともとあった地域特有の特徴だとは考えにくく、放射線を含め何らかの環境要因によって生じた異常であった可能性が高いと考えられます。
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A7. サンプリング地点のほとんどは海岸線よりはるかに内陸側にあります。また、沿岸地域のサンプリングにつきましても、津波の影響のないエリアでサンプリングを実施したため、津波による影響はないものと考えられます。調査地点の地図は詳細にあります→ダウンロード
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Q8. 原発の北側や西側の地域ではサンプリングが行われていないのはどうしてですか?
A8. 当初の実験計画では会津や仙台を含む、福島第一原子力発電所を囲むような形で採集を計画しておりました。しかしながら、サンプリングの進行状況や天候、また捕獲した母蝶を生きたまま持ち帰る必要性のため、発表されているようなサンプリング地点、サンプル数を得ることで精一杯であり、そのため白石市が調査の最北地となっております。
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Q9. 照射実験では照射の間全く世話をしなかったのではないか?
A9. 照射実験では、2日または3日おきにコンテナの清掃、食草の交換、補充を行っています。これは対照群についても同じで、全く同一のタイミングで行っています。
また、飼育環境に関しましては明期-暗期:16L-8D、温度条件:27±1℃となっています。そのため得られた結果は飼育環境の違いによるものではありません。
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Q10. きちんとした結果を出すにはサンプル数が少ないのではないですか?
A10. 私たちの実験では、合計5,942個体のヤマトシジミを調べました。また、得られた結果につきましても、全て統計的に有意な結果です。私たちはこれまで10年以上ヤマトシジミを扱っており、一貫して同一の飼育法を用いて研究を進めてきており豊富な飼育経験があります。その中で、このような形態異常をもつ個体はこれまで出現したことがありません。そのため、福島地方のヤマトシジミで観察された異常個体の出現は非常に特殊な現象だと考えられます。また、統計解析も行なっており、その結果も論文に載せたうえで議論を行っています。
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Q11. 観察された異常は遺伝子の異常によるものですか?
A11. 観察された形態異常が遺伝子の異常であるという直接的な証拠はありません。しかしながら、形態異常のいくつかは次世代へ遺伝しました。これにより出現した異常の中に、遺伝子の異常により生じたものが存在している可能性があることがわかります。今後の実験では出現した形態異常が遺伝子異常によるものであるかどうか、DNA配列を比較し、直接的に調べていく予定です。
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Q12. 一般に昆虫は放射線に強いと言われていますが、ヤマトシジミでは比較的低い放射線量でも影響が出ています。この違いはどう説明できますか?
A12. 一般的に、昆虫は放射線に強いといわれています。それは不妊虫を作る場合に、個体へ短時間に高線量の放射線照射を行う実験に由来するものです。
今回の実験では幼虫期の非常に若齢の時期からサナギ期まで、長期間にわたる低線量の照射実験を行ったことに加え、放射性物質の混入した食草による影響についても検証しました。このような研究事例は他になく、従来の放射線照射実験とは全く実験条件が異なります。さらに、放射線への感受性は種により大きく異なる可能性が考えられます。
今回の実験結果がヤマトシジミに特異的であるのか、また他のチョウや昆虫にも適用されるものであるのか、今後研究していかなければならない部分であると考えております。
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Q13. ヤマトシジミで起こったことが、人にも同様に起こり得ますか?
A13. この実験の結果のみをもって人体への影響を計り知ることはできません。昆虫の生理反応と人を含めた哺乳類の生理反応は全く異なります。また、放射線感受性は近縁種間によっても大きく異なることが考えられます。そのため、人における放射線の影響については、より多くの、さまざまな実験による検証結果に基づいて判断しなければなりません。ただし、チョウも人も分子レベルでみればかなり類似した生き物ですので、放射線の影響についても、特に分子レベルのメカニズムで考えると、何らかの共通点はあるということになります。
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A14. 今後の実験では、まず、福島地方におけるヤマトシジミが今後どのように変化していくか、継続した長期的なモニタリングを行う必要があると考えています。2011年から2013年の3年間におけるモニタリング結果はすでに発表しています(論文)。また、今回の実験において観察された形態異常が遺伝子の異常に由来するものであるかどうか、直接、遺伝子配列を比較することにより調べることを予定しています。さらに、ヤマトシジミ以外の種についても放射線感受性を調べることを予定しています。
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Q15. ヤマトシジミ(放射能汚染の影響調査)の研究以外にはどのような研究をしていますか?
A15. 大瀧研究室では、ヤマトシジミへの放射線の影響調査以外にもさまざまな研究を行っています。研究対象の生物も幅広く、チョウだけでなく魚やヒトなどについての研究も行なってきました。研究内容も、沖縄の蝶の分類や進化、チョウや魚の色模様形成のメカニズム、タンパク質のアミノ酸配列解析・機能解析、化学物質受容(嗅覚)メカニズムなど多岐にわたっています。詳しくは研究室紹介のページをご覧ください。