フクシマプロジェクト

 大瀧研究室では、2011年の事故直後から福島県周辺で放射能汚染の生物学的影響について調査を行ってきました。このページでは、それらの研究の成果や参考文献などを紹介します。

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 先日、本研究室の卒業生である野原千代さんがご逝去されました。突然の訃報に接し、胸を痛めております。心よりご冥福をお祈り致します。
 共に過ごした時を思い返し、彼女の足跡を辿りながら、そのひとつひとつに手を合わせたいと思います。友情と敬意と感謝を込めて。
 安心して、ゆっくり休んで下さい。

大瀧研究室一同          

大瀧研から発表した論文

※論文中の図や表は日本語訳版には付けておりません。日本語版だけでなく、原文(英語版)も併せてダウンロードして読んでいただきますよう、よろしくお願いたします。

2015/12/9

Ingestional and transgenerational effects of the Fukushima nuclear accident on the pale grass blue butterfly

ヤマトシジミにおける福島原発事故の内部被爆的・継世代的影響

[最新論文(第7報)] 内部被爆影響と継世代的な影響に焦点を当ててこれまでの研究をまとめた論文
 この論文では、これまでの研究でヤマトシジミ(Zizeeria maha)において明らかになったことやそこから考えられることについて、内部被曝と継代的影響に関することを中心についてまとめた。
 ヤマトシジミは幼虫のときに汚染された植物の葉を食べると、たとえ低い線量であっても一部の個体で形態異常が生じたり死んでしまう。しかしその一方で、それらの個体以外では、形態異常としては影響が現れない。この感受性の違いは放射線耐性の適応進化の基盤となる。また、放射線量の変化に伴う形態異常率および死亡率の変化は、ワイブル関数やべき関数のモデルにあてはまった。さらに、親世代が汚染されたエサを食べて育った場合、その子世代が汚染されたエサを摂取すると高い死亡率を示した。しかし、これらの子世代でも汚染されていないエサを食べれば死亡率は低い水準に回復する。
 我々の2011~2013年における野外調査では形態異常率と死亡率のピークは主に2011年秋となっており、その後は減少していき正常なレベルにまで戻った。これらの発見は初期の被曝のインパクトの大きさと特定の期間における継世代的な影響の蓄積を示している。しかし、個体群は3年以内、15世代以下という比較的短い期間で正常な状態に戻った。

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2015/2/10

Spatiotemporal abnormality dynamics of the pale grass blue butterfly: three years of monitoring (2011–2013) after the Fukushima nuclear accident

ヤマトシジミにおける異常率の時空間的な動態:福島原発事故後3年間(2011-2013)のモニタリング調査

[第6報] 事故後3年間のモニタリング結果をまとめた論文
 2011年3月の福島原発事故による放射能汚染の生物影響についての長期間のモニタリングは、汚染地域に生息している生き物に何が起きたのかを理解するために必要である。そこで我々は、1世代の期間が約1か月であるヤマトシジミ(Zizeeria maha)を用いて、野外個体群(成虫)および飼育個体(野外採集個体の子世代)における異常率の空間的・経時的な変化を調べた。その調査は、福島市、本宮市、広野町、いわき市、高萩市、水戸市、つくば市の7地点で、2011年~2013年の3年間に春と秋、計6回行われた。
 その結果、汚染地域においては成虫(野外)の異常率は、急速に増加し2011年秋(5世代目)にピークに達することがわかった(この現象は低汚染地域では見られなかった)。また、飼育個体における総異常率(幼虫、前蛹、蛹期における死亡と成虫期における形態異常を含む)も、2011年秋(5世代目)または2012年春(7世代目)でピークに達した。飼育個体の異常率レベルが野外個体よりも高かったことから、野外個体群では実際にはさらに多くの死亡と異常が出現していたことを示している。そして重要なことに、これらの野外個体群および飼育個体群での異常率の上昇は、2012年秋(11世代目)、2013年春(13世代目)には正常なレベルに戻った。さらに、同様の結果が、1分当たりの捕獲頭数の変化や地面線量だけでなく、原発からの距離と成虫の異常率との間でみられる相関係数の変化においても得られた。
 これらの結果は、初期の世代で生理的・遺伝的な不利益が発生し蓄積するが、それらは後に減少し正常値に戻ることを明らかにした。これは、原発事故後における生物の動態についての現在までに得られている最も包括的な記録である。さらに、これらは、野生生物における人工的な汚染の生物影響を評価する際には世代時間や適応進化を考慮に入れることが重要であることも示している。

original article

2014/9/23

Ingestion of Radioactively Contaminated Diets for Two Generations in the Pale Grass Blue Butterfly

ヤマトシジミにおける二世代にわたる放射能汚染食物の摂取

[第5報] 内部被曝による影響をさらに掘り下げた論文
 本研究では、小型の蝶ヤマトシジミへの汚染食草の影響を詳しく調べた。食草は、東北2地域(本宮市:161Bq/kg、郡山市:117Bq/kg)、関東2地域(柏市:47.6Bq/kg、武蔵野市:6.4Bq/kg)、東海1地域(熱海:2.5Bq/kg)、および沖縄(0.2 Bq/kg)にて採集した。第一世代への影響に加え、2世代連続で汚染食草を与えた時の影響(継代効果)についても調べた。
 第一世代では、東北地域の食草を与えた群において、沖縄の食草を与えた群よりも高い死亡・異常率、前翅の矮小化がみられた。また、死亡率はセシウムの摂取量に大きく依存していた。関東および東海地域の食草を与えた群の生存率は80%を維持したが、東北地域の食草を与えた群でははるかに低い値となった。第二世代では、東北地域の食草を与えた群の生存率は20%を下回ったが、沖縄の食草を与えた群では70%を超えた。第二世代における生存率は、第一世代の摂取した放射線量に依存するものではなく、第二世代の摂取した食草に依存していることを示している。さらに、第二世代でも前翅の矮小化がみられ、これは2世代を通じたセシウムの累積摂取線量と相関があった。このことから、第一世代の摂取した食草もまた、第二世代へ影響を与えることを示唆している。
 汚染食草由来の放射線による生物学的影響は、放射性物質の摂取量が少量の場合でも検出され得る。影響は継代的だが、非汚染食草の摂取により回復することも可能であった。このことから、観察された影響のうち少なくとも一部は、非遺伝的な生理的変化に起因することを示唆している。

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2014/8/14

Fukushima's Biological Inpacts: The Case of the Pale Grass Blue Butterfly

福島原発事故の生物学的影響:ヤマトシジミの場合

[第4報]ここまでの研究のまとめ的な論文
 この論文では、これまでの調査で明らかにしてきたことやそれらが意味していることは何かという点について、あらためて丁寧にまとめた。 これまでの研究を振り返ってみると、事故直後から調査を開始した事で汚染地域で起きた生態学的なダイナミクスを理解することができたと思われる。つまり、事故直後からの調査によって我々は放射線への抵抗性が獲得される進化の過程をリアルタイムで観察できた可能性がある。
 また、我々の経験から、汚染が生じた時の生物への影響を調べる際の指針として以下のことを提案する。環境汚染がもたらす生物学的影響を明らかにする、あるいはその効果によって生じる分子的なメカニズムを明らかにするためには、まず、野外におけるデータを集めること、そしてその野外での現象を実験室内で再現することが重要であり、これら2点を基礎とした研究デザインを組んでいくべきである。
※この論文は著作権の関係で現在は日本語訳は掲載しておりません。

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2014/5/15

The Biological Impacts of Ingested Radioactive Materials on the Pale Grass Blue Butterfly

ヤマトシジミにおける放射性物質摂取の生物学的影響

[第3報] 内部被曝の影響を定量化して評価した論文(2014年)
 ヤマトシジミを用いて、放射性セシウム摂取線量と死亡率および異常率との関係を定量的に評価した。沖縄で採れた幼虫に、汚染区域で採集した食草を与えたところ、セシウム摂取線量に応じて死亡率・異常率が低線量レベルで急激に上昇した。この線量と異常(死亡)率との関係は、べき関数モデルに最も適合し、そのモデルから示される半数致死線量と半数異常線量は、幼虫1個体に対して1.9と0.76Bq、体重1kgあたり54000と22000Bqであった。また、蛹(さなぎ)内の放射性セシウムの残留率・蓄積率は、いずれもセシウム摂取量が最も低い場合に最も高い値を示した。これらの結果から、少なくともヤマトシジミにとっては汚染された食物を食べる危険性は実在しており、他のいくつかの生物にとっても危険性があるだろうと結論付けられる。

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2014/8/30

原発事故の生物への影響をチョウで調査する

雑誌『科学』(岩波書店)の9月号に掲載された解説
 この解説では、これまでに行ってきた研究の内容を説明するだけでなく、研究における科学的・社会的な背景や研究を始めた経緯などを述べています。

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2013/8/12

The Fukushima Nuclear Accident and the Pale Grass Blue Butterfly: Evaluating Biological Effects of Long-term Low-dose Exposures

福島第一原子力発電所事故とヤマトシジミ:長期低線量被爆の生物学的影響

[第2報] 第1報へ寄せられた疑問や批判に対する反論やコメントを解説した論文(2013年8月)
 2012年8月9日にScientific Reportsで発表した研究論文に多く寄せられた以下の11点の疑問点や質問等についての答えを明確化した。(1)ヤマトシジミには指標生物として多くの利点がある。(2)福島地方の個体の翅(ハネ)サイズの矮小化、(3)発達遅延。(4)福島地方で観察された斑紋異常は、外部・内部放射線照射実験や突然変異誘発剤により生じる斑紋異常に類似していることから、遺伝子変異によるものである可能性が示唆。(5)ヤマトシジミは福島地方で少なくとも50年間にわたり豊富な個体数を維持(事故以前の福島県産の標本を提示)。(6)2011年5月から同年9月にかけて異常率の上昇が見受けられることから遺伝子変異の蓄積が示唆。(7)観察された形態異常は遺伝性を持つ。(8)ヤマトシジミを採集した地点は津波の影響はない。(9)研究に用いた個体数は統計的に有意な結果を得るのに十分。(10)飼育は標準的な飼育方法で行われ、対照群では正常な成虫個体を得た。(11)照射実験により、野外採集の結果が再現。
 昆虫細胞は一般的に短時間の高線量放射線照射には高い抵抗性を示すと考えられてきた。しかし、ヤマトシジミにおいては外部、内部からの長時間の低線量放射線照射に高い感受性を示した。この不一致は実験手法の違いから生じると説明できると考えられる。低線量の長時間放射線被曝における生物への影響の解明はまだ始まったばかりであり、福島第一原発事故の生物への影響の正確な評価にはさらなる研究が必要である。

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2012/8/9

The Biological Impacts of the Fukushima Nuclear Accident on the Pale Grass Blue Butterfly

福島原子力発電所事故のヤマトシジミへの生物学的影響

[第1報] ヤマトシジミによる放射能汚染関連研究の最初の論文(2012年8月)
 福島第一原子力発電所の事故による放射性物質の拡散が、日本で普通に見られる小型の蝶であるヤマトシジミへの生理的・遺伝的損傷の原因となっているということを示した。2011年5月に被爆一世代目の成虫を福島地域で採集したところ、比較的軽度の異常を示す個体がいくつか見られた。被爆一世代目(親世代)のメスから産まれた子世代(F1)には、親世代より高い異常が観察された。この異常は孫世代(F2)に遺伝した。2011年9月に採集した蝶には、5月に採集たものよりも過酷な異常が観察された。同様の異常は、非汚染地域である沖縄の個体を外部および内部被曝させることにより、実験的に再現された。これらの結果から、福島原発由来の人工放射性物質がヤマトシジミに生理的・遺伝的損傷を引き起こしたと結論する。

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その他の出版物

2016/1

「汚染地域におけるヤマトシジミの調査」
「ヤマトシジミの被曝実験」

[専門研究会報告書]
 2015年8月10日と11日に京都大学原子炉実験所で行われた「福島原発事故による周辺生物への影響に関する専門研究会」のプロシーディングです。 この研究会では24件の報告と70人以上の参加があり、このプロシーディングスには21編の原稿が収録されています。これらの原稿の内、2編が大瀧研究室からの報告をまとめたものとなっています。
 このプロシーディングスのPDFカラー版は以下から無料でダウンロードできます。

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2015/11/5

The Biological Impacts of the Fukushima Nuclear Accident on the Pale Grass Blue Butterfly

福島原子力発電所事故のヤマトシジミへの生物学的影響

[国際フォーラムプロシーディング]
 2014年11月29日にジュネーブで行われた「電離放射線の遺伝的影響についての科学と市民フォーラム(Scientific and Citizen Forum on the Genetic Effect of Ionaizing Radiation")」のプロシーディングです。 日本、アメリカ、フィンランド、イングランド、ドイツから6人の専門が招待され、講演を行いました。そのフォーラムの内容を主催であるIndipendentWHOがまとめたものが本プロシーディングになります。我々の研究室からは野原千代さんが発表を行いました(Pp93-105)。発表時の質疑応答なども掲載されております。また、表紙には野原さんへの献辞も掲載されています。
 このプロシーディングはIndipendentWHOのホームページのプロシーディング特設ページからから無料でダウンロードできます。青字になっている"Read or download the Proceedings"をクリックしてください。

Downloadページ IndependentWHOのホームページ(英語)

大瀧研から発表した関連論文

2015/1

Body size distributions of the pale grass blue butterfly in Japan: Size rules and the status of the Fukushima population

日本におけるヤマトシジミの体サイズ分布:サイズ則と福島個体群のステータス

2011年に福島でみられたヤマトシジミの翅(ハネ)の矮小化について、詳細に検討した論文。ヤマトシジミの前翅の長さの地理的・季節的な変化を調べた。これらの結果と2011年の福島での調査結果を比較して、放射能汚染の影響について再考した。

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2015/1

The Lycaenid Central Symmetry System: Color Pattern Analysis of the Pale Grass Blue Butterfly Zizeeria maha

シジミチョウ科の中央相称系:ヤマトシジミの色模様解析

シジミチョウ科のチョウの斑紋やその形成のメカニズムについて論じた論文。この研究で、ヤマトシジミに突然変異誘導物質(メタンスルホン酸エチル; EMS)を与える実験が行われた。突然変異によってどのような斑紋の変化が生じるのかは、福島で採集されたヤマトシジミに見られた斑紋異常を考える上で非常に参考になる論文です。

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ABTプロジェクト

2016年度

避難指示解除地域における生物学的リスクの検討プロジェクト

指定解除された(される予定の)地域において、そこに生息する生物の状態や生息する生物がどの程度のリスク(放射線に対する)を負っているのかを実際に調べて、避難指示解除の妥当性について新たな視点から検討してみようという試みです。

2015年度

再稼働原発モニタリング プロジェクト

福島原発事故の調査の際に事故以前のデータ(事故以後の調査との比較データ)が不足したという事実に鑑み、万が一事故が起こってしまった場合に備えて、再稼働原発の現在の状況をモニタリングしました。

参考文献